近年、“うつ”や“うつ病”という言葉に出会う機会が多くなりました。現在では誰もが、うつ病という用語をどこかで、また何度かは聞いたことがあると思います。新聞の健康欄、家庭欄などでうつ病についての特集記事が組まれることも多くなっていますし、健康雑誌のみならず一般雑誌でも“うつ”や“うつ病”の特集がよく取り上げられています。2006年には始めて、抗うつ薬を販売する製薬会社が提供するうつ病啓発用のCMが、テレビや新聞を通して流されました。また、うつ病を経験したアナウンサーや俳優の体験記が書物として出版され、それが2007年には、テレビでドラマ化して放映されました。心療内科クリニックでも、“気分が憂うつ”や“気分が落ち込む”と訴える人々の受診はますます増えてきています。
また、「うつ病はこころの風邪」といわれるように、うつ病は誰もがかかったことがある風邪と同じようにポピュラーな病気として認識されるようになってきています。また、「現代はうつ病の時代」といわれ、うつ病は、近年ストレッサーの増加とともに激増しつつあるこころの病気のひとつですが、実際に一般の人々はこの病気を正しく理解できているのでしょうか。
心療内科や精神科で診療していると、うつ病を正しく理解してもらうことの難しさを感じることが多々あります。また、心理系や社会福祉系の大学生と話していても、あるいは職場の管理職や労務管理者と話していても、“うつ”や“うつ病”に対して正しく理解しているとは思えないことが間々あります。それどころか、こころの病気に携わる専門家間でさえ、共通の認識がなされていないと感じることも少なくありません。言葉としては私たちの耳にすんなりと入ってくる“うつ”や“うつ病”という用語の意味が、実は個人によってさまざまであり、“うつ病”という精神疾患の概念が拡大し、曖昧化しているように感じられてなりません。いい換えれば、“うつ”、“うつ病”という言葉が現代社会の中で独り歩きし、統制が取れなくなっているともいえるのです。
そこで、このホームページでは、“うつ”や“うつ病”について分かりやすく解説していきたいと思います。大切なことはその基本的な考え方であり、病気に対する正しい認識です。細かな診断や治療、対応については専門家に任せてもらえばいいのです。うつ病が人間にとって避けることのできない病気であり、病気を早く発見し、自殺や辞職のような不幸な結末を招かないよう、知っておかなければならない最低の知識を提供していきます。