うつ病とは、専門的な言葉で説明すると、感情・気分、意欲、思考などの障害を示す精神症状とともに、不眠、食欲不振などのさまざまな身体症状を示す病気です。また、ある人では意欲に対する障害が強く、別の人では感情・気分の障害が強いということもおこってきますし、精神症状よりも強く身体症状が訴えられるうつ病もあります。
しかし、患者さんによく聴いてみると、やはり感情・気分の障害や意欲の障害を現す症状が存在するのがうつ病の特徴であり、丹念にそして詳細に患者さんの有する症状をチェックすることが、うつ病の診断には不可欠ですが、それはむしろ専門家に任せるべきでしょう。以下に、うつ病でみられる具体的な症状をあげてみます。
うつ病でもっとも中核的な症状は、抑うつ気分と表現されます。抑うつ気分とは、患者さんから「気分が憂うつ」「気分が沈む」「気分が晴れない」「気が滅入る」「うっとうしい」などと表現されるものです。また、このような抑うつ気分を背景にして、「悲しさ」「寂しさ」「むなしさ」「孤独感」「無力感」「絶望感」などが訴えられることもあります。
さらに、「快」や「喜び」などのポジティブな感情を抱くことができず、いろいろな出来事に対し、興味や関心が湧かなくなってきます。あるいは不安や焦燥が強くなり、些細なことでいらつきやすくなったり、漠然とした不安を訴えることもあります。
うつ病で見られる意欲の障害とは、「やる気がおこらない」「気力が減退している」「億劫である」「意欲が湧いてこない」「何をやっても面白くない」「何もやりたくない」などと表現される症状です。これは、勉強する、仕事をする、家事をするといったことに対する意欲が湧いてこないばかりではなく、以前は好きでしばしば行っていたスポーツ観戦や友人と飲みに行くことまでもが、億劫でしんどくなってきます。
つまり、楽しみごとや趣味に対しても、する意欲が失せ、興味や関心が湧かなくなってくるのです。メールをうったり、テレビを見たり、入浴したり、今までは何の苦痛を感じることもなく行っていた日常の事柄でさえ、遂行するのが億劫になってくることもあります。
うつ病で生じる思考障害のひとつは、思考抑制あるいは思考制止と呼ばれ、「考えが前に進まない」と表現されるように、思考の進み方が鈍くなるものです。したがって、「頭が働かない」、「考えが浮かんでこない」、「考えがまとまらない」、「集中できない」、「決断ができない」などと訴えられることになります。健康なときには、普通に考えが浮かび、手順良く物事を処理できていたのに、うつ病になるとそれが思うようにできなくなるのは、思考抑制という症状によるものであると考えられます。
うつ病で生じる思考障害のもうひとつは、悲観的思考と呼ばれ、健康なときには考えられないような悲観的な考えに支配されたり、自責的、自罰的に考えてしまうということです。特に心配しなくてもよい子どもの行動を過剰に心配し、その将来を悲観的に考えてしまったり、職場での些細な出来事が、とんでもない破滅を引き起こすのではないかと心配してしまいます。うつ病者ではしばしば自然に悪い方へと考えてしまい、その考えを自らでは修正することができません。絶えずネガティブに考え、自分を責め、自分を過小評価してしまいます。このような悲観的思考が高じてくると、「会社を辞めるしかない」と思ってしまったり、「死ぬしかない」と考えてしまう自殺念慮へと発展することもあります。
うつ病に特徴的な身体症状として、全身倦怠感、疲労感がまずあげられます。これは「身体がしんどい」、「何となく身体がだるい」、「ちょっとしたことですぐに疲れやすい」などと、訴えられるものです。漠然とした身体の不調を感じており、精神科や心療内科より先に内科を受診することもあります。
また、不眠や眠気など睡眠に関わる症状も、うつ病では必須といえるほどよくみられる症状です。うつ病に特異的といえる睡眠障害は存在しませんが、中途覚醒(夜間に何度も目覚める)や熟睡感の障害(時間的には眠っているのによく眠れた感じがしない、眠りが浅い)はよく訴えられる症状です。また、入眠困難(寝つきが悪く、なかなか眠れない)や早朝覚醒(朝早く起きてしまって、その後眠れない)がみられることもあるし、これらの睡眠障害が重複することもあります。逆にいくら眠っても眠くて仕方がないといった過剰睡眠や日中の強い眠気が訴えられることも珍しいことではありません。
さらに食欲不振や吐き気、胃部不快感、便秘などの消化器症状もしばしば訴えられる身体症状です。それに伴い体重減少もおこってきますが、逆に過食傾向や活動性の減少のために体重増加が生じてくることもあります。その他にも性欲の低下、生理不順、頭痛や頭重、めまいやしびれなど多彩な身体症状が生じてくることもありますが、これらの症状はいずれも身体的異常で説明できるものではありません。